欅坂46

The MomentHow does it feel?

終幕から未来へ、今彼女たちが語ること
FCメンバーだけに届ける特別連載

第一回菅井友香 & 守屋茜

「自分たちのすべてをぶつける」
センターのいないラストシングルに込めた覚悟

終わらせるという決断はやっぱり悔しかった

「本当に…言葉にするのが難しくて」(菅井)

覚悟の背景には、いくつもの葛藤があった。

2020年7月16日、初の無観客配信ライブ「KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU!」のステージで、欅坂46は改名を発表した。その決断に至るまでの感情の起伏は、とても一言で表せられるものではなかった。

「この5年間、振り返ると色々なことがありすぎて。改名について、最初はどうにか欅坂を続けられないのかって考えていました。終わらせるという決断は…やっぱり悔しい気持ちはありました」(菅井)

しかし、2019年9月に行われた東京ドームでのエポックメーキングなライブ以降、活動は思うように進んではいなかった。シングルの発売延期、相次ぐメンバーの卒業。そして、これまですべてのシングルでセンターを務めてきた平手友梨奈の脱退。グループがかつてない危機に瀕していることは、メンバー自身が一番よくわかっていた。

「たくさんのことを考えて、話し合った時期でした。結局、平手がいないと“欅坂”としては認めてもらえなかったのかな、と気持ちが後ろ向きになることもありました。だけどそうやって下を向いていては、今までの自分たちまで否定することになってしまう。だったらこの配信ライブで、私たちの想いをきちんとぶつけたいと思ったんです」(菅井)
新二期生も加わった今の私たちにとっては初めてのライブだからこそ、画面越しのたくさんのファンに「物足りなかった」とは絶対に言わせたくなかった。
「『これからが楽しみ』と思ってもらえるパフォーマンスに到達するためには、相当の練習が必要だということはわかっていました」(守屋)

ラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか?」に、センターというポジションは存在しない。キャプテン、副キャプテンである菅井と守屋、そしてこれまで様々な場面でパフォーマンスを牽引してきた小林由依、渡邉理佐の4人を中心にフォーメーションを変化させていく振り付けだ。

「『誰鐘』はメンバー全員にスポットライトが当たりつつ、集大成として一期生が全体を引っ張っていくようなフォーメーションになっているんです。そこに対する責任も、もちろん感じていました。これまでの活動に対するすべての想いを込めて、ちゃんと伝えなきゃって」(菅井)

訴えかけるようなサビの振り付けなど、菅井と守屋はユニゾンでの動きも多い。
「私たちが揃わないと、全体の見え方にも影響してきます。皆を奮い立たせるパフォーマンスをしないとって、そこはすごくこだわりました」(守屋)

自分たちが、欅坂46をちゃんと終わらせる

配信ライブに向けたリハーサルが始まると、メンバーはひたすら練習に明け暮れた。特に新曲のパフォーマンスの要となる4人は、これまでにないほどお互いの意見を伝え合ったという。
「直接会えなかった自粛期間中も含め、ずっと話をしていました。グループの今後について、楽曲について。色々な気持ちを伝えたけれど、最終的に思うことはみんな同じだったんじゃないかな」(菅井)
そして何より、不器用な彼女たちにとって、踊ることは時に言葉を交わすこと以上に心を通わせられる手段になっていた。
「とにかく練習を続けていくうちに、同じ目標が見えてきたというか。今の自分たちのすべてをぶつけたいという気持ちで、全員が一つになった気がします」(守屋)
「この期間を通して、メンバーとの関係性はさらに濃いものになったと思います」(菅井)

ライブ前日、菅井はメンバー全員にあるメッセージを送る。そこにはキャプテンとして、そしていちメンバーとしての彼女の素直な思いがつづられていた。
「一人ひとりの今の力を見せつけたい」。

およそ10カ月ぶりとなるライブ、そしてグループ再始動に多くの期待の声が上がる一方で、メンバーの耳には批判的な声も届いていた。今、欅坂46がライブを行う意義はあるのだろうか?果たしてこのライブは成功するのか?

「それでも私は、このライブには絶対にやる意味があると思って。だから自分の気持ちをみんなに共有したんです。観てくださる方を不安にさせないためにも、私たち一人ひとりがより一層輝かなきゃいけない。色々な意見はあるだろうけど、そんなものに負けてたまるか、こんなことで終わらせてたまるかって」(菅井)

「私も、絶対に負けたくないと思っていました。色々な声を受け止められたから、より一致団結できた気がします。『絶対成功させようね』って」(守屋)
グループきっての負けず嫌いは、熱の入った声でこう続けた。
「自分たちがちゃんと欅坂を終わらせるためにも、このライブを開催することの意味を考えていたと思うんです。もちろん比較できるものではないけれど、これまでのライブとは違う感覚でした」

気付いたら友香の手を握ってた

気持ちは固まっていた。それでも、いざ画面越しのファンへ改名を発表する前は複雑な心境だったという。自分が“それ”を口にすることで、本当に欅坂46を終わらせてしまう。現実のものとなれば、もう後戻りはできない。

そんな菅井の胸の内を、誰よりも近くで感じ理解していたのが守屋だった。
「MCの内容をずっと考えていたのも見ていたし、あの場で話すことがどれほど大変なことだったかもよくわかるから。気付いたら友香の手を握っていました」(守屋)

MCの後、「誰がその鐘を鳴らすのか?」を披露するため移動するメンバーたちの中で、守屋は菅井の手を取ってステージまでの階段を登った。その時のことを聞くと、少し照れくさそうに笑ってこう答える。
「お互いに支え合ってきたし、これからも頑張ろうねって気持ちを込めて、ですかね。でも単純に『(MC)よかったよ、お疲れ』って伝えたかったんです(笑)」(守屋)
「MCのあとは衣装替えもあってバタバタしていたんですけど、色々な感情が入り混じって整理がつかなくて。でも、苦楽を共にしてきた茜と手を繋いだら、その瞬間に気持ちを共有できた気がして安心しました。最後のパフォーマンスに向けて、もうひとふんばり頑張ろうって」(菅井)

その後のパフォーマンスについては、もはや説明不要だろう。28人それぞれが楽曲のメッセージを伝えるストーリーテラーとして開花したさまは、グループの未来に希望を抱かせるのに十分な説得力を持っていた。
「欅坂46としては集大成になる楽曲だけど、『これからますます応援したい』と思ってもらえる形で締めたかったんです。だから、体が壊れてもいいから踊ろうって。実際にライブが終わってからしばらくは、体中あちこち痛くて引きずってました(笑)。だけど、初めて自由に生き生きと踊れた実感があって…すごく気持ちよかったです」(守屋)

「誰がその鐘を鳴らすのか?」のパフォーマンスは、メンバーが一斉に欅坂46のエンブレムを外す振り付けと共に終わる。
「エンブレムを外すっていうのは、『ああ、これで本当に終わるんだ』という実感が再びのしかかってきた瞬間でもありました。アウトロが流れている間、目をつぶったまま色々なことがよみがえってきて。過去のMV撮影の日のこと、歌番組に出演させていただいた日のこと…メンバーとの日々が、走馬灯みたいにとめどなく浮かんでは消えて。そのときだけは、少し泣いちゃいました」(菅井)

欅坂46を手放すという決断。その痛みと引き換えに、新たなグループとして生まれ変わるということ。ステージから戻ってきた満身創痍のメンバーの表情は、長年そばで見てきたスタッフでさえ驚くほど晴れやかで清々しいものだった。終演後の会場には、グループを再建していくのは自分たちだという前向きな空気が漂っていた。

「あとから映像を見たら、私のMC中、みんな覚悟が決まったような表情をしていたのが印象的でした。強い眼差しで前を見ていて、心強いなって。とはいえ、二期生の中にはライブ後に泣いていた子も多くて。みんなここまで本当に頑張ってきてくれたし、欅に対する思いも想像以上に強いものだったんだなって、正直心が痛くなった部分もあります。だけど未来に向けて『進化したい』といった明るい言葉を聞くことができたので、これからが楽しみだし、支えていけるように尽くしたいです」(菅井)

守屋が「二期生の成長もすごく感じたよね」と話すと、菅井も大きく頷く。「それはリハの段階から感じていました。画面に映ったときのふとした表情に、心が動かされることがたくさんあって。本当に、この一年は大きかったんだなって」(菅井)
加入したばかりの新二期生が自分たちの殻を破って変化していくことも、今は心から楽しみにしている。成長し続ける後輩の姿は、自分たちを奮い立たせる刺激にもなり、やがてグループに新たな風を吹かせる存在になり得るからだ。

自分たちの覚悟や力が試されている

ピンチに陥る度、パフォーマンスでそれを乗り越えてきたグループだった。

「歌詞をどう伝えるか、いかにパフォーマンスを追及するかということをずっと大事にしてきて。それが欅坂46というグループのプライドでもありました。どんなことがあっても、そこだけは変わらなかった。ラストシングルにおいても、それは同じです。ただ今回はセンターがいないぶん、色々なところで全員が光っているというか。可能性に満ちた曲だと思うんです。だから本当に、メンバーみんなを見てほしい。そう思います」(菅井)

「ずっと、『今の私たちに問われているかのような歌詞だな』と感じていて。この曲をこのタイミングで託されたということは、ある意味で自分たちの覚悟や力が試されているんだと思うんです。だから、今まで欅坂としてやってきた表現のすべてをぶつけたい。“欅らしさ”って、一体なんだったのか…それをどう言葉にしていいかはわからないですけど、『伝えたい』という意思そのものが欅坂らしさなのかもしれないです」(守屋)

最後に楽曲に込めた思いについて聞くと、菅井は穏やかな口調でこう答えた。

「この曲で歌っている『平等』とか『愛』、『神様』という言葉は、平和を想像させる部分があるなと感じていて。個人的には今まで、楽曲の主人公である“僕”の主張と向き合わなくてはいけない立場になることが多かったんです。その中で、みんながもっと分かり合えるようにするにはどうしたらいいんだろう、とずっと考えていて。黙って耳を傾けてみようという歌詞は、等身大の私たち自身の声でもある。だから今まで以上に共感できるし、伝えたいと強く思う楽曲なんです。この時代だからこそ、色々な人に届いてほしい。たくさんの方に寄り添うことのできる曲になればいいなと思っています」

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